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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)127号 判決 1977年1月31日

原告 王長徳

被告 目黒税務署長

訴訟代理人 押切瞳 鳥居康弘 ほか四名

主文

本件各訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

一  被告が原告に対し、昭和四三年三月一日付をもつてなした所得税決定処分および無申告加算税の賦課決定処分を取消す。

二  被告が、昭和四三年五月一四日付でなした原告名義の電話加入権(七一二局七七一一番)に対する差押処分を取消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  本案前の答弁

主文同旨

二  本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(請求の趣旨第一項について)

1 被告は原告に対し、昭和四三年三月一日付をもつて原告の昭和三九年分所得税について総所得金額を一九、二一〇、九五〇円、所得税額を九、一四九、一〇〇円とする決定処分および無申告加算税を九一四、〇〇〇円とする賦課決定処分(以下右両処分をあわせて「本件決定処分」という。)をなした。

しかしながら、原告には昭和四三年中なんら所得が発生していないから、本件決定処分は違法である。

2 原告は本件決定処分に対して昭和四三年三月二八日被告に異議を申立て、同年一一月八日付で棄却決定がなされたので、同年一二月六日東京国税不服審判所長に審査請求(以下「第一回目の審査請求」という。)をした。

ところが、その後右審査請求に対する裁決書の謄本が送達されないので、昭和四六年九月一〇日付をもつて東京国税不服審判所長に再度審査請求(以下「第二回目の審査請求」という。)をした。

国税不服審判所長は、右審査請求に対し、昭和四七年二月二九日付をもつて、本件決定処分については、第一回目の審査請求の申立に対してすでに昭和四五年一〇月七日付で裁決(以下「第一回目の裁決」という。)をしているから、再度審査請求をすることはできないとしてこれを却下する旨の裁決(以下「第二回目の裁決」という。)をした。

しかし、国税不服審判所長のなした第二回目の裁決は違法である。すなわち、原告は前記のとおり第一回目の裁決書の謄本の送達を受けていないので、第二回目の裁決は理由の前提に重大な誤りがある。したがつて、原告がなした第二回目の審査請求は適法である。

3 よつて、原告は被告に対し本件決定処分の取消を求める。

(請求の趣旨第二項について)<省略>

二  被告の主張

1  本案前の主張

(請求の趣旨第一項の訴について)

(一) 国税不服審判所長は昭和四五年一〇月七日付をもつて本件決定処分に対する審査請求について第一回目の裁決をなし、右裁決書の謄本は同年一〇月二二日原告の住所に送達された。したがつて、本件訴は出訴期間を徒過した不適法なものである。

もつとも、原告は、昭和四三年三月一二日東京拘置所に勾留され、同年四月六日釈放され、さらに同年七月五日判決の言渡により再び同所に収監され、爾後昭和四八年までの間、同拘置所、中野刑務所、府中刑務所に順次収容されていたものであるところ、右の第一回目の裁決書の謄本は原告の肩書地所在の家屋を住所として郵便により送達され、原告の内縁の妻飯田鈴子がこれを受領したものである。

ところで、審査請求に対する裁決は、国税通則法一〇一条一項、八四条三項により、審査請求人に裁決書の謄本を送達して行なうが、送達の方法については、同法一二条により郵便による送達又は交付送達によりその送達を受けるべき者の住所又は居所に送達することとされている。したがつて、在監者に対する書類の送達については、本人の住所がある限り、これに送達することを妨げないのである。

しかるところ、裁決書を送達した前記家屋には、原告の収監前には原告および原告の家族が居住し、収監後においても原告の家族がそのまま居住していたものである。そして、原告が収監されて不在中は右留守宅に居住していた飯山鈴子が、留守宅の管理の一切をし、また指定面会人として在監中の原告に対し頻繁に面接していたのである。しかも、本件決定処分にかかる原告の所得税の納税地は右留守宅の所在地であり、原告は本件決定処分に対して第一回目の審査請求の申立をなした昭和四三年一二月六日ころには右留守宅に居住していなかつたにもかかわらず、右申立書に右留守宅を住所と記載している。

以上の事実を総合すれば、前記留守宅は原告の収監後においても原告の住所であつたと解すべきである。

(二) 仮に、前記裁決書を飯田鈴子が受領したことによつて送達の効力が生じないとしても、同女は裁決書の受領後のもつとも近接した刑務所の面会日に裁決書を同所に持参し、原告に提示したと推認されるので、その日をもつて原告は裁決書の内容を了知したものと解すべきである。

(三) したがつて、原告の昭和四六年九月一〇日付の第二回目の審査請求は不適法であり、国税不服審判所長は昭和四七年二月二九日付の第二回目の裁決においてこれを却下したものである。そうとすれば、本件訴は、行訴法所定の出訴期間を徒過した不適法なものというべきである。

(請求の趣旨第二項の訴について)<省略>

2  本案の主張

(請求の趣旨第一項の訴について)

請求原因事実のうち、昭和四三年中原告においてなんら所得がなく、本件決定処分が違法であるとの主張は争う。

(請求の趣旨第二項の訴について)<省略>

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

(請求の趣旨第一項の訴について)

1 国税通則法も民訴法もともに「送達」なる用語によつて名宛人に対し書類を交付する制度を設けているが、その法的性質、要求される方式は基本的には同一であるべきである。したが.つて、送達に関し国税通則法上規定を欠く場合には民訴法上の規定を類推適用するのが妥当である。

そうとすれば、在監者に対する送達は、民訴法一六八条によつて監嶽の長になすべきであるから、これを交付を受けるべき者の住所(留守宅)においてしても無効というべきである。

2 国税不服審判所長の昭和四五年一〇月七日付の第一回目の裁決について、原告の内縁の妻である飯田鈴子がその裁決書謄本を原告肩書地所在の家屋において受領してはいるけれども原告は同女に在監中の留守宅の管理を委ねたことはなく、また指定面会人として刑務所に届出たこともない。原告が留守宅の管理を委ねたのは守谷富美子であり、指定面会人も同女であつた。原告が在監中、飯田鈴子が原告のもとに裁決書の謄本を持参した事実はない。

もつとも、原告が東京拘置所に収監中であつた昭和四三年一二月六日本件決定処分に対する審査請求の申立をなした際に、原告の住所を肩書地である東京都目黒区五本木三丁目一三番一九号と記載したことはあるけれども、これをもつて、民訴法一六八条の規定に反し、右場所を送達場所とすべき謂れはない。

(請求の趣旨第二項の訴について)<省略>

第三証拠関係<省略>

理由

本件各訴が適法であるかどうかについて判断する。

(請求の趣旨第一項の訴について)

被告が原告に対し、昭和四三年三月一日付をもつて、本件決定処分をなしたところ、原告がこれに対して異議申立をし、さらに右異議申立却下決定に対し昭和四三年一二月六日付で第一回目の審査請求をしたこと、右審査請求に対する国税不服審判所長の昭和四五年一〇月七日付の第一回目の裁決について、その裁決書謄本が同月二二日原告の肩書地所在の家屋に送達され、原告の内縁の妻飯田鈴子がこれを受領したことおよびその当時原告は刑務所に在監中であつたこと、原告の昭和四六年九月一〇日付の第二回目の審査請求に対して、国税不服審判所長が昭和四七年二月二九日付でこれを不適法として却下する第二回目の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、在監中の者に対する裁決書の謄本の送達は民訴法一六八条を類推適用し監獄の長になすのでなければ無効であると主張する。

しかしながら、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類の交付は、国税通則法一二条ないし一四条に定める方式による送達をもつてこれをなすことを要し、かつ右の所定の送達をなせば足りるものと解するのが相当である。けだし、民訴法上の送達ならびに税務行政庁のなす国税関係書類の送達は、いずれも書類を交付すべき者に対する交付を確実にし、交付に関して後日の紛争を防止するために一定の方式に従つてなすべきことが要求される点においては同じではあるとしても、税務行政庁のなす処分の通知は、迅速性が要請され、頻度等において、差異のあることは明らかであるから、送達に関しても右の差異に応じてそれぞれ合理的な方式を定めることも許されるべきものであり、両者の送達方式を細部にわたつてまで同一に規定する必要は存しないからである。ちなみに、原告所論のごとくであるならば、国税通則法においては、送達一般に関して、民事訴訟法の送達に関する規定を準用する旨の規定をおくか、もしくは民事訴訟法の例によると規定すれば足りることであり、特に独立して規定を設ける必要はないものというべきである。したがつて、在監者に対する送達について民訴法一六八条のような規定を欠く国税通則法のもとにおいては、在監者に対しても同法一二条により本人の住所又は居所に送達しても送達の効力を生ずるものといわなければならない。

ところで、生活の本拠としての住所とは、生活関係の中心的場所であり、生活関係の中心的場所であるかどうかの判断は、諸般の客観的事実を総合してなされるべきものであることはいうまでもないところである。そして、この理は、本人が在監中であつても、そのことのみによつては異ならないものというべきである。

本件においては、<証拠省略>によれば、原告は本件決定処分をうけた昭和四三年三月一日以前から、同月一二日東京拘置所に収監されるまでの間、肩書地所在の家屋を住所としていたものであり、同月一二日から同年四月六日までの間は同拘置所に勾留されていたが、同日釈放されて後同年七月五日判決の言渡により同拘置所に収監されるまでの間再び右住所に戻り、同日以後昭和四八年までの間は同拘置所、中野刑務所、府中刑務所等に順次収容され、出所後は右住所に帰住していること、原告は在監中の昭和四三年三月二八日肩書地を住所として本件決定処分に対し異議申立をし、さらに刑の執行により拘置所に収監された後である昭和四三年一二月六日になした第一回目の審査請求の申立書にも肩書地を住所として記載していること、拘置所へ収監される前後を通じ、原告の家族は肩書地において生活を営んでおり、内妻飯田鈴子も同居していて同女は原告が在監中、頻繁に原告と面会し、昭和四五年五月一八日指定面会人として届出され、第一回目の裁決書を受領した後には同年一一月一一日に面会していること等の事実が認められ、これらの事実からさらに原告は、本件決定処分に対する行政不服申立について、関係書類の受領を飯田鈴子に委ねる意図であつたものと推認できるから、以上の事実を総合して判断すれば、第一回目の裁決の裁決書謄本が原告肩書地所在の家屋に送達された昭和四五年一〇月二二日ころ、国税通則法一二条の適用上、原告の住所は右家屋であるとするのが相当である。

そして第一回目の裁決の裁決書謄本を飯田鈴子が右住所で受領している以上、他に特段の事情も認められない前記事実関係のもとにおいては、右裁決は原告の了知しうべき状態におかれたものというべきであるから、右裁決書謄本は適法に原告に送達されたものといわざるをえない。

したがつて、原告のなした第二回目の審査請求は不適法であつて、国税不服審判所長がなした第二回目の裁決は適法といわなければならない。

以上の次第で、本件訴は第一回目の裁決の裁決書の謄本が送達された昭和四五年一〇月二二日から起算すれば、行訴法一四条三項所定の出訴期間を徒過したものであることが明らかであるから不適法というべきである。

(請求の趣旨第二項の訴について)<省略>

よつて、本件各訴をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久 山下薫 三輪和雄)

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